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ATHLIVIA Running Science
#6栄養2026-07-03

鉄はちゃんと摂ってるのに、なぜ貧血? ― ランナーの鉄を左右する「ヘプシジン」の話

鉄不足の裏には、吸収を締める門番ホルモンがいます。運動も、そして「食べないこと」も、その引き金になります。

鉄はちゃんと摂ってるのに、なぜ貧血? ― ランナーの鉄を左右する「ヘプシジン」の話
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「鉄分はしっかり摂っているのに、なぜか貧血気味」「レバーもサプリも試したのに、フェリチンが上がらない」── 長距離ランナー、とくに女性ランナーからよく聞く悩みです。

実はこれ、「鉄が足りない」だけの問題ではないことが多いのです。鍵をにぎるのは、ヘプシジンという聞き慣れないホルモン。鉄をどれだけ体に取り込めるかを決める"門番"です。今回は、この門番の正体と、なぜランナーで厄介になるのかを見ていきます。

ヘプシジンは「鉄の門番」

鉄の門番ヘプシジン。ゲートが開くと腸から鉄が吸収され(左)、運動の炎症とエネルギー不足の2つが門を閉じて吸収をしぼる(右)

ヘプシジンは肝臓から出るホルモンで、体の鉄の出入りを一手に管理しています。ヘプシジンが増えると、腸からの鉄の吸収がしぼられ、体内でのリサイクルも止まります。つまり、ヘプシジンが高いときは、いくら鉄を口から入れても、血液に取り込まれにくい

だから鉄不足の対策は「どれだけ摂るか」だけでなく、「門番が閉じていないタイミングで摂れているか」までがセットになります。

なぜランナーは門番が閉じやすいのか

運動そのものが、ヘプシジンを上げます。しくみは主に炎症です。運動をするとIL-6という物質が増え、それが刺激になってヘプシジンが運動後およそ3〜6時間でピークを迎えます。

実際、長時間のランニングのあとではヘプシジンが約51%上がり、食事からの鉄の吸収が約36%落ちたという報告があります(McCormick・Peelingら、訓練されたランナー対象)。走るたびに、数時間は門番が閉じ気味になるわけです。

さらにランナーには鉄が失われる経路がいくつもあります。着地の衝撃で赤血球が壊れる溶血汗からの喪失、女性では月経。これらが積み重なって、じわじわ鉄を削っていきます。持久系の女性で鉄欠乏は15〜35%(種目によっては24〜42%)と、決してまれではありません。

おもしろいのは、すでに鉄が欠乏している人(フェリチンが低い人)は、運動後もヘプシジンが上がりにくいこと。体が「今は鉄が要る」と判断して、炎症の信号を上書きするのです。つまり門番が閉じて困るのは、むしろ「あと一歩で欠乏」という準最適な段階の人。ここが検査値で戦略を変えるべき理由になります。

「食べないこと」も引き金になる ― ここが見落とされがち

そしてもう一つ、最近とくに注目されているのが、エネルギー不足そのものがヘプシジンを上げるという点です。トレーニングの炎症だけが犯人ではありません。

男子長距離ランナーを対象にした研究(Ishibashiら)では、エネルギー利用可能性を低く抑えた(LEA)3日間で、血清ヘプシジンがはっきり上昇しました(ある日で 22.2 対 8.9 ng/ml)。同時に筋グリコーゲン(筋肉の糖の貯金)が減っていました。

しくみは2つ考えられています。ひとつは、糖が枯れると筋肉からのIL-6が増えるという炎症経路。もうひとつが重要で、炭水化物が足りないという代謝の信号が、炎症とは別ルートで肝臓の鉄コントロールを動かし、ヘプシジンを上げるという経路です。実際この研究では、炎症の指標に差があってもヘプシジンの動きが説明しきれない場面があり、「食べない・糖を絞る」こと自体が独立した引き金になっている可能性を示しました。

言いかえると、エネルギー不足(LEA)やREDsは、鉄不足を"二重"に悪化させるのです。汗や月経で鉄を失いながら、門番まで閉じてしまう。日本の女子長距離の現場で貧血が根深いのは、この重なりを考えると腑に落ちます。「夏だから、しっかり食べて寝る」がなぜ効くのか ── その一部は、この鉄の話でも説明できるのです。

ここまでが「なぜ門番は閉じるのか」。ここから先は、その門番を出し抜く具体的なやり方です。

じつは ── 同じ鉄でも、摂る"時刻"を変えるだけで、体への入り方は大きく変わります。さらに直感に反して、鉄サプリは毎日きちんと飲むより、"一日おき"のほうがよく効くことがわかってきました。カギは、やはりヘプシジン。門番の開き方には時間のクセがあり、それを知っているかどうかで、8週間後のフェリチンが変わってきます。

いつ摂れば"開いている窓"に入れるのか。なぜ隔日なのか。そして、貧血の数値が出るに捕まえる検査の見かた ── ここから順番に、実践プロトコルとして解いていきます。

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後半では、具体的な実践プロトコルを解説します。

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