ランニングエコノミーを上げる筋トレは「スピード」で変わる ― 高負荷とプライオの使い分け
31研究・652名のメタ分析が示す、効く速度帯と最適な組み合わせ
長距離選手のパフォーマンスを語るとき、VO₂max や乳酸性作業閾値と並んで欠かせないのがランニングエコノミー(Running Economy: RE)です。同じVO₂maxを持つ選手同士なら、REの良い選手のほうが速い ── これは現場の感覚とも一致するところだと思います。
そのREを改善する手段として古くから注目されてきたのが筋力トレーニング。ただ「で、結局どの筋トレが効くの?」という問いには、これまで歯切れの良い答えがありませんでした。そこに一石を投じたのが、2024年に Sports Medicine に掲載されたこのレビューです。
Llanos-Lagos C, Ramirez-Campillo R, Moran J, Sáez de Villarreal E. (2024) Effect of Strength Training Programs in Middle- and Long-Distance Runners' Economy at Different Running Speeds: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Medicine, 54(4): 895–932. PMID: 38165636(オープンアクセス)
このレビューの「エッジ」はどこか
筋トレ×REのメタアナリシス自体は既にいくつもあります。このレビューが新しいのは、「評価したランニング速度ごとに効果が違うのではないか」という視点で切り分けた点です。
実際、過去の研究でも筋トレの効果は測定速度によってバラついていました。背景には、エネルギーコストとスピードの関係がU字型になるという現象があります。低速域と高速域では伸張–短縮サイクル(SSC)や腱の弾性利用の度合いが変わるため、同じ筋トレでも「効く速度帯」がずれてくるわけです。
このレビューは31研究・計652名(中強度〜高度トレーニング者)を対象に、筋トレ法を高負荷(HL, ≥80% 1RM)/中負荷(SL, 40–79%)/プライオメトリクス(PL)/アイソメトリック(ISO)/複合(combined)の5つに分類し、三層メタアナリシスで速度の影響まで解析しました。
結論をひとことで
| 筋トレ法 | RE改善効果 | 効きやすい条件 |
|---|---|---|
| 高負荷(HL) | 小(ES = −0.27) | 高速域(>12 km/h)・高VO₂maxの選手 |
| プライオ(PL) | 小(ES = −0.31) | 低速域(≤12 km/h) |
| 複合(combined) | 中(ES = −0.43) | 単独法より大きい改善 |
| 中負荷(SL) | 効果なし | ─ |
| アイソメトリック(ISO) | 効果なし | ─ |
ポイントを噛み砕くと、次の3つです。
1. 高負荷トレは「速い選手」「速い局面」でこそ活きる モデレーター解析で、走速度とVO₂maxが高いほどHLの効果が大きくなることが示されました。トラックの中距離やレースペースの速い選手に対して、HLの優先度は高いと言えます。
2. プライオは低速域(≤12 km/h)で効く SSCと腱弾性に働きかけるプライオは、ゆっくりめのペースでのREを改善。ジョグ〜ロング走主体のフェーズや、まだ走力が高くない選手に組み込む価値があります。
3. 一番効いたのは「組み合わせ」 HLとPLを併用した複合トレが、単独法より大きな効果(中程度のES)を出しました。両方をプログラムに入れる意義はデータでも裏づけられています。
逆に、中負荷トレやアイソメトリック単独では有意なRE改善は見られませんでした。「とりあえず重め以外で筋トレしておく」では、RE向上という観点では物足りない可能性があります。
現場で使うときの注意点
エビデンスの確実性(GRADE)は「中〜低」で、決定打というより強い示唆と捉えるのが適切です。また、REの測定単位(酸素コスト vs エネルギーコスト)や、絶対速度か相対速度かで結果が変わる点はこのレビュー自身も強調しています。トレーニング処方に落とすときは、「自分の選手がどの速度帯で勝負しているか」を起点に考えるのが筋の通った使い方になりそうです。
まとめ
- 高負荷トレ=高速域・高VO₂maxの選手で効く
- プライオ=低速域で効く
- 複合(HL+PL)が最大の改善。中負荷・アイソメトリック単独は効果なし
- まず「その選手がどの速度帯で勝負するか」から逆算して処方する
トレーニングに活かすなら OptiRun BASE の「プライオメトリクス計画」「ウエイトトレーニング計画」機能を使えば、高負荷トレとプライオを期分けに沿って組み込めます。選手が勝負する速度帯に合わせて、HL中心か・PL中心か・両方かを設計し、トレーニング記録と一緒に管理できます。
参考文献
- Llanos-Lagos, C., Ramirez-Campillo, R., Moran, J., & Sáez de Villarreal, E. (2024). Effect of Strength Training Programs in Middle- and Long-Distance Runners' Economy at Different Running Speeds: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Medicine, 54(4), 895–932. PMID: 38165636