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ATHLIVIA Running Science
#5傷害予防2026-07-02

長距離ランナーに、両脚スクワットだけでは足りないかも ― 走りを生む「交差性リズム」と、ケガを防ぐ「片脚」の話

片脚トレには、2つの意味があります。走りのリズムを鍛えること、そして走り続けられる体を守ること。脳と脊髄の仕組みから考えます。

長距離ランナーに、両脚スクワットだけでは足りないかも ― 走りを生む「交差性リズム」と、ケガを防ぐ「片脚」の話
ジムでランナーが筋トレをする ── そう聞くと、多くの人がバーベルを両肩に担いだスクワットを思い浮かべるのではないでしょうか。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。長距離走って、左右の脚を「交互に」動かし続ける運動ですよね。しかも、着地のたびに片脚一本で全体重を受け止めています。なのにトレーニングは両脚同時のスクワットばかり。これって、本当にベストな形なのでしょうか。

先に結論を言うと、両脚のスクワットは「土台」としてとても大事です。ただ、それだけだと足りない部分がある。今回はその「足りない部分」を、走りのリズムを生む仕組み(CPG)と、ケガの予防という2つの角度から考えてみます。

まず、ランナーの筋トレは「大きくする」ためじゃない

長距離選手が筋トレをする一番の目的は、筋肉を大きくすることではありません。ねらいは、神経系をうまく働かせて、力を効率よく出せるようにすること。だから合言葉は「重く・少なく・しっかり休む」です。

具体的には、けっこう重い重量(1回だけ挙げられる最大重量の85〜90%くらい)を、3〜6回だけ。しかも「あと2〜3回はいけるな」という余力を残して終えます。追い込みません。頻度は週2〜3回、脚の日と日のあいだは最低まる2日あける。研究でも、走りの効率をはっきり良くするのは、こうした高負荷や、それとジャンプ系を組み合わせたやり方だと報告されています。

この土台の上で、「両脚か、片脚か」を考えます。そして片脚トレには、実は2つの意味があります。

「両脚だと走りのリズムが鈍る」── この直感、実は脚では当たっていない

まず正直な話をします。「両脚を同時に動かすと左右が同調してしまって、走りに必要な"左右交互のリズム"を邪魔するんじゃないの?」── これ、なんだか筋が通っていそうですよね。私も最初はそう思いました。

ところが、脚で実際に測ってみるとそうなっていないんです。頭の上から磁気で脳を軽く刺激して神経の反応を調べる方法(TMS)で確かめたところ、両脚同時の動作では、むしろ神経の反応や筋肉の使われ方が高まる方向に出ました。左右をブロックし合うような抑制も増えていません。「両脚だと片脚ずつより力が出にくい」現象を"脳の抑制"で説明する考え方自体、まだ決着がついておらず、しかもその多くは腕での話。姿勢を支え、移動を担う脚にそのまま当てはめるのは無理があります。

つまり「両脚はリズムを抑える」を理由に片脚トレを持ち上げるのは、ちょっと不誠実。では、片脚トレの本当の意味はどこにあるのか。ここから、2つの柱に分けて見ていきます。

意味その1:走りのリズムそのものを鍛える

走りや歩きのリズムは、背骨の中(脊髄)にあるCPG(中枢パターン発生器)という仕組みから生まれると考えられています。しかもこれは「邪魔しないよう避けるもの」ではなく、ふさわしい刺激を与えれば育つ、柔らかい回路です。

脊髄が走りのリズムを生む模式図 走りのリズムは脊髄(背骨の中)で生まれ、左右の脚を交互に動かす信号として下りていく、というイメージです。

これを示す面白い研究があります。彼末・西村らのグループが、腰のあたり(腰髄)を体の外から磁気で刺激したところ、脚に規則正しい運動が"勝手に"誘発されました。しかもその動きは、刺激の強さによって2つのタイプに分かれたのです。

同期性と交差性の2つのリズムの比較 弱い刺激では両脚が同じ方向に動く「同期性(左)」、強い刺激では左右交互の「交差性(右)」が現れます。走りは右の交差性リズムそのものです。

走るという動作は、まさにこの「交差性(左右交互)」のリズムそのもの。動物の実験では、この"交互"と"同時ジャンプ"を切り替えるスイッチ役の神経細胞まで見つかっています。つまり交差性のリズムは、専用の回路に支えられているんですね。

ここに片脚トレの一つ目の意味があります。片脚・交互のドリルや腕振りは、この走り特有の左右交互リズムを直接刺激します。両脚同時のジャンプは"同時タイプ"寄りで、走りへのつながりは弱め。しかも研究では、片脚で鍛えると片脚の力や跳躍・スプリントへ、より特異的につながることも示されています。走りは、そもそも「片脚支持の連続」なのですから。

意味その2:走り続けられる体を守る(ケガの予防)

そしてもう一つ、見落とされがちなのがケガの予防という視点です。

さきほど触れたとおり、走りは「片脚立ちの連続」です。着地のたびに、片脚一本で全体重を受け止め、骨盤や膝が内側に崩れないよう支えなければなりません。ところが両脚のスクワットばかりだと、この「片脚で自分の体をコントロールする力」はあまり鍛えられません。左右がお互いを助け合ってしまうからです。

片脚支持と左右差のイメージ 着地のたびに片脚で全体重を支え、骨盤の崩れを抑えます。片脚トレは左右差(強い側と弱い側の偏り)を整えるのにも役立ちます。

片脚のトレーニングは、そこを直接鍛えられます。しかも左右を別々に扱えるので、利き脚に頼って気づかないうちに開いていた左右差を埋め、弱い側を底上げできます。左右のアンバランスや弱い側の取り残しは、負担の偏りにつながりやすいもの。片脚トレで差を縮め、体を安定させる筋肉をきちんと動員することは、ケガのリスクを下げる方向に働くと考えられています

だから片脚トレは「走りを速くする」ためだけのものではありません。「走り続けられる体を守る」ための投資でもあるわけです。

まとめ ── 「土台の両脚」と「走りの片脚」の二階建て

長距離ランナーの筋トレは、両脚で重く挙げる「土台」と、片脚で交互に動く「走りに直結する刺激」の二階建てで考えると、すっきり腑に落ちます。ジムで力の土台をつくり、片脚ドリルや交互のジャンプ、そして走ること自体で、走りのリズムを磨きつつ、左右差を整えて体を守る。両脚と片脚はライバルではなく、役割分担の相棒です。

両脚が土台・片脚が上層の二階建てモデル 両脚スクワットで力の「土台」をつくり、その上に片脚ドリルや走りを積み上げる。二階建てのイメージです。

両脚と片脚の割合は、シーズン導入期は6:4、走り込みが増える競技期は4:6くらい、と局面で少しずつ動かすのが一つの目安になります。

ちなみに「競技を比べると、長距離選手がいちばん"交互(交差性)"の動きを示す」という興味深い話もあるのですが、これはまだ公表された論文としては確認できていない、いわば未確認の知見です。もし将来これが裏づけられたら、「走り込みが左右交互のリズムを研ぎ澄ます」という絵に、もう一本きれいな線が引かれることになりそうです。

トレーニングに活かすなら 片脚トレを続けるうえで、まず知っておきたいのが自分の「左右差」です。OptiRun BASE では単脚バランスの左右差やトレーニング負荷を記録・可視化できるので、「どっちの脚を、どれだけ底上げするか」を数字で追えます。土台の両脚と、走りの片脚 ── その二階建てを、毎日のデータで育ててみてください。

※ この記事は一般的な情報の紹介です。ケガの診断や一人ひとりに合った運動の処方は、資格を持つ専門家にご相談ください。

もう一歩踏み込みたい人へ:2つのリズムのちがい

同期性(同じ方向)交差性(左右交互)
動きのイメージ両脚が同方向・ホッピング様両脚が交互・歩き/走り様
誘発に必要な刺激弱めで出てくるもっと強い刺激が要る
走りとの関係つながりは弱い走りのリズムそのもの
鍛える刺激の例両脚同時ジャンプ など片脚・交互ドリル・腕振り・走/ジャンプ

主な参考文献

  1. Zehr EP, et al. (2018). Sherlock Holmes and the curious case of the human locomotor central pattern generator. J Neurophysiol.
  2. Kawai K, Tazoe T, Yanai T, Kanosue K, Nishimura Y (2022). Activation of human spinal locomotor circuitry using transvertebral magnetic stimulation. Front Hum Neurosci 16:1016064.
  3. Zhang W, et al. (2023). Effect of unilateral training and bilateral training on physical performance: a meta-analysis. Front Physiol 14:1128250.

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