ATHLIVIA Running Science
#29傷害予防2026-11-04

ケガの手がかりは「横から」より「後ろから」見える ― 前額面・水平面のランニングバイオメカニクスと、現場での見方

膝や股関節まわりの障害では、股関節の内側への入りや骨盤の落ち込みなど、横からは見えない動きが関わる研究が多い。ただし「予測できる」までは言えない。スマホ動画やセンサーで何が分かり、何が分からないかも整理します。

ケガの手がかりは「横から」より「後ろから」見える ― 前額面・水平面のランニングバイオメカニクスと、現場での見方
フォームのチェックというと、スマホを横に置いて撮ることが多いのではないでしょうか。接地の位置、膝の曲がり、上体の傾き。でも、膝の外側が痛む、すねが痛むといった相談を受けたとき、横からの動画だけで原因の手がかりが見つかることは、意外と少ないものです。

結論を先に

体の動きを3つの面で考える

バイオメカニクスでは、体の動きを3つの面に分けて考えます。

体の動きを分ける3つの面の模式図。矢状面は横から見える曲げ伸ばし、前額面は前後から見える内側・外側への傾き、水平面は上から見たねじれ。前額面・水平面の動きとして、股関節の内転、骨盤の落ち込み、かかとの外がえし、股関節と膝の内旋を示している。模式図。

走りの速さを決める動きの多くは矢状面にあります。だからフォームの話も、横から見た動きが中心になりがちです。しかし、ケガとの関係を調べた研究を並べると、違う景色が見えてきます。

ケガの危険因子は、前額面と水平面に多かった

ドイツのグループが、長距離ランナーに多い8つのケガ(シンスプリント、アキレス腱障害、足底腱膜炎、膝蓋腱障害、腸脛靭帯炎、脛骨の疲労骨折、ハムストリングの腱障害、膝蓋大腿疼痛)について、ケガをした人としていない人の走りを比べた66本の研究をまとめました(Willwacher ら 2022)。

ケガ別に見ると、次のような研究があります。

ケガの種類ごとに報告されている前額面・水平面の動きの一覧。膝蓋大腿疼痛は股関節の内転(女性の追跡研究)、腸脛靭帯炎は股関節の内転と膝の内旋(女性の追跡研究)、脛骨の疲労骨折は股関節の内転・フリーモーメント・かかとの外がえし(経験者との比較)、複数のケガで骨盤の落ち込み(ケガをしている人との比較)。研究の種類を併記している。

膝の外側にある腸脛靭帯は、股関節が内側に入り、膝が内側にねじれると引き伸ばされる位置にあります。脛骨のらせん状の疲労骨折では、骨を軸のまわりにねじる力が関わると考えられています。どちらも横から撮った動画には映りません。横からだけ見ていると、こうしたサインを見落とす、というのがこの話の核心です。

ただし「予測できる」とまでは言えない

ここで大事な注意があります。

上の研究には、2つの弱点があります。1つは、すでにケガをした人や、ケガの経験がある人を測った研究が多いことです。この場合、ケガのせいで走りが変わった可能性を否定できません。もう1つは、股関節の内転を追跡研究で示した根拠が、ほぼ同じ研究グループの、女性ランナーの集団から出ていることです。

そして、ケガをする前に測って、その後を追った研究(前向き研究)だけを集めると、結論はかなり慎重になります。

前額面・水平面を重視する根拠と、慎重になるべき根拠の比較。重視する側は、66研究のレビューで危険因子の大半が前額面・水平面にあったこと、女性の追跡研究で股関節の内転が大きかったこと。慎重になるべき側は、追跡研究30本のメタ分析で動きの指標は概して支持されなかったこと、骨のケガではピッチが1歩/分高いごとにリスク5%低下、衝撃を減らす指導でケガが38%から16%に減ったこと。

さらに、3つの面は独立していません。膝蓋大腿疼痛があり、骨盤や股関節の前額面の動きが大きいランナー12人に、ピッチを10%上げる指導を1回だけ行った研究では、3か月後に骨盤の落ち込みが約3°、股関節の内転が約4°小さくなり、痛みなく走れる距離が平均6.8km延びました(Bramah ら 2019。対照群のない小規模な研究です)。横から見える動きを変えると、後ろから見える動きも変わるのです。

まとめると、こう言うのが正確です。

「前額面・水平面の動きは、膝や股関節まわりのケガの手がかりとして重要。横から見るだけでは見落とす。ただし、それだけでケガを予測できるわけではなく、ピッチや衝撃など横から見える側と合わせて見る」

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