ATHLIVIA Running Science
#20ランニングエコノミー2026-09-16

厚底の「4%」は、あなたの数字ではない ― 効く人と効かない人を分けるもの

64人を測ると−2.6%から+11.0%まで開いた。年齢も性別も体格も走力も、その差を説明しなかった。

厚底の「4%」は、あなたの数字ではない ― 効く人と効かない人を分けるもの
同じモデルの厚底を買った。周りは「軽く進む」と言う。自分はよく分からない。むしろ脚が疲れる気さえする。感じ方の問題なのか、それとも本当に効いていないのか。

結論を先に

厚底カーボンシューズ(研究では advanced footwear technology、AFT と呼ばれます)が平均して4%ほどランニングエコノミーを改善する、というのは事実です。ただし「平均4%」は集団の性質であって、個人に配られる保証ではありません

2026年8月に発表された64人の実験は、この点を今までで最も広いサンプルで確かめました。結果を先に書きます。

この記事は「厚底を履くな」という話ではありません。平均値を自分の期待値にしないこと、そして自分がどちら側かは試して確かめるしかないことを、数字で確認していきます。

「平均4%」がどこから来たのか

まず、この4%という数字の出どころを確認します。

2018年、Hoogkamer らが18人の高水準ランナーを対象に、新しいミッドソール素材と埋め込みプレートを組み合わせたプロトタイプを、当時の主要なレーシングシューズ2種と比べました。靴の重さを揃えたうえで、14・16・18 km/h の3速度で測っています。

結果は、18人全員でエネルギーコストが低下。平均で 4.16%、4.01% の改善(ともに p < 0.001)でした。これが「厚底は4%」として広まった数字です。

ただし、この研究の本文にはもう一つの数字が書かれています。18人の個人差は、1.59%から6.26%まで開いていた、と。著者自身が「considerable inter-individual variation(相当な個人間変動)」と書いています。「平均4%」は、最初の日から4倍近い幅を含んだ平均でした。

そして数字は、比べ方を変えると動きます。2025年のメタ分析(14研究)は、プレートありとプレートなしを比べる形で代謝の負担を集計し、約2〜3%(平均 −2.75%) という値を出しました。エビデンスの確実性は中程度(GRADE moderate)です。著者らは、比較された靴がプレート以外(フォームや形状)でも違うため、効果をプレート単独に帰することはできないと明記しています。

一方、AFT と従来型シューズを比べた別のメタ分析(17研究・281名)では、酸素摂取量で g = −0.44 [−0.59, −0.30]、そしてタイムトライアルの成績でも g = −0.23 [−0.37, −0.10] の改善が出ています。効果は実在します。ただし効果量としては小〜中程度です。

「平均4%」の内訳。Hoogkamer 2018(18名)では平均4.16%改善だが個人は1.59〜6.26%、Hebert-Losier 2026(64名)では平均4.13%で個人は−2.62〜11.01%、Knopp 2023の世界クラス7名では−11.3〜+11.4%と、いずれも平均値の周りに大きな個人差が広がっていることを示す横方向のレンジ図

64人を測ったら、11人は「効かない側」だった

ここからが今回の主役です。ニュージーランド・ワイカト大学のグループが、2024年10月から2025年2月にかけて64人を実験室に集めました。事前登録済みのランダム化クロスオーバー試験です。

対象は男女32名ずつ、14.6歳から72.2歳。長距離ランナーが67%、レクリエーションレベルが52%、経験者が42%。かなり幅の広い集団です。

靴は AFT が Salomon S/Lab Phantasm 2、対照が Salomon Aero Glide 2。全員が最大酸素摂取量に対応する速度の70%で6分間、両方の靴で走りました。

結果です。

血中乳酸も AFT のほうが低く(1.61 ± 0.52 vs 1.72 ± 0.60 mmol·L⁻¹)、平均としての効果は明確です。それでも、6人に1人は「意味のある改善」の側に入りませんでした。そして最も悪かった1人は、対照シューズより2.62%効率が落ちています。

64名の反応分布。平均は4.13%改善だが、範囲は−2.62%(悪化)から11.01%(改善)まで広がり、2.5%の閾値を超えた53名(83%)と届かなかった11名(17%)に分かれたことを示す図。報告された平均・SD・範囲・人数から作図した模式図

何が「効く人」を分けたのか

この研究の本題は、ここからでした。研究チームは40を超える項目を測っています。身体計測、筋の受動的な硬さ、足の形態、足関節と母趾の最大筋力、片脚ホッピングの脚剛性、最大酸素摂取量、走行中のバイオメカニクス、主観評価。

そして、効いた側と効かなかった側で有意に違っていたのは、たった1つでした。

腓腹筋内側頭(ふくらはぎの内側の筋)の受動的な硬さです。アキレス腱付着部から8cm上の筋腹に、専用機器で微細な打撃を5回与えて振動の返り方を測り、脚長で割った値。効いた側のほうが硬く、平均差 33.4 N·m⁻²、Hedges' g = 0.86 [0.20, 1.51]、p = 0.046 でした。

相関で見ると、改善の大きさと関係していたのは次の項目です。

項目相関 r [95%CI]p
腓腹筋内側頭の硬さ(脚長で正規化)0.35 [0.11, 0.55]0.005
舟状骨降下(アーチの落ち込み)0.31 [0.07, 0.52]0.012
腓腹筋内側頭の硬さ(生値)0.29 [0.04, 0.50]< 0.05
足関節ギア比0.26 [0.01, 0.48]< 0.05
立位での底屈最大筋力−0.26 [−0.47, −0.01]< 0.05

最後の1行に注目してください。符号がマイナスです。つまり、足首を蹴り出す筋力が弱い人ほど、厚底で得をしていた。「厚底の反発を活かすには脚の強さが要る」という直感とは逆の向きです。著者らも、これは事前の推測と反対だったと述べています。

重回帰にかけると、最終的に残った予測因子はふくらはぎの硬さ(B = 0.014, p = 0.015)とアーチの落ち込み(B = 1.849, p = 0.028)の2つ。モデル全体は有意でした(F(4, 58) = 5.45, p < 0.001)。

ただし、説明できた分散は 27.3%(調整済み 22.3%)です。

厚底の効き方と相関した項目のフォレストプロット。腓腹筋内側頭の硬さ(r=0.35)と舟状骨降下(r=0.31)が正、底屈筋力(r=−0.26)が負の相関を示す一方、年齢・性別・体格・走歴・最大酸素摂取量・脚剛性・走行フォームは有意差がなかったことを併記した図。回帰モデルの説明力は27.3%

効かなかった項目のリストのほうが、実は役に立つ

この研究で最も実用的な情報は、有意差が出なかった項目の一覧です。

年齢、性別、身長・体重などの体格、ランニング歴、走る速さ、最大酸素摂取量、片脚ホッピングで測る脚のバネ、足関節の筋力、母趾の付け根の関節可動域、そして走行中のバイオメカニクス変数。これらはどれも、効いた側と効かなかった側を分けませんでした。競技レベル(レクリエーションか経験者か)でも差はありませんでした。

同じ結論に、別の集団・別の測定手法からも到達しています。スウェーデンのグループが2026年に報告した研究では、10kmを男子31分前後・女子37分前後で走る30名を対象に、大腿骨と脛骨の長さをDXAで、アキレス腱長を超音波で測りました。

「アキレス腱が長い人は厚底が合う」「体重が軽いとフォームを潰しきれない」といった説明は、理屈としては筋が通ります。実際そう論じた文献もあります。しかし、DXAと超音波でちゃんと測った30人では、どれも成立しませんでした。

つまり現時点で、店頭で測れる情報から「あなたに厚底が効くか」を判定する方法は存在しません。

ここから先は有料コンテンツです

続きを読む

後半では、具体的な実践プロトコルを解説します。

Webで続きを読む(購読)
アプリでも読めます ― OptiRun BASE 科学コラム

新着コラムをメールで受け取る

ランニング科学コラムの新着を、メールでお届けします。

トレーニングに活かすなら ― OptiRun BASE
← 記事一覧へ