厚底の「4%」は、あなたの数字ではない ― 効く人と効かない人を分けるもの
64人を測ると−2.6%から+11.0%まで開いた。年齢も性別も体格も走力も、その差を説明しなかった。
同じモデルの厚底を買った。周りは「軽く進む」と言う。自分はよく分からない。むしろ脚が疲れる気さえする。感じ方の問題なのか、それとも本当に効いていないのか。
結論を先に
厚底カーボンシューズ(研究では advanced footwear technology、AFT と呼ばれます)が平均して4%ほどランニングエコノミーを改善する、というのは事実です。ただし「平均4%」は集団の性質であって、個人に配られる保証ではありません。
2026年8月に発表された64人の実験は、この点を今までで最も広いサンプルで確かめました。結果を先に書きます。
- 平均は確かに 4.13 ± 1.6% の改善だった。ただし個人の反応は −2.62%(悪化)から11.01%(改善) まで開いた
- 64人のうち 11人(17%) は、意味のある改善とされる2.5%に届かなかった
- 誰が効いて誰が効かないかを、年齢・性別・体格・走歴・最大酸素摂取量・脚の筋力・走りのフォームは、どれも説明しなかった
- 予測に関わったのは2つだけ。ふくらはぎの受動的な硬さと足のアーチの落ち込み。それでも説明できたのは、ばらつきの 27.3% にすぎない
- つまり残り7割は、まだ誰にも分かっていない
この記事は「厚底を履くな」という話ではありません。平均値を自分の期待値にしないこと、そして自分がどちら側かは試して確かめるしかないことを、数字で確認していきます。
「平均4%」がどこから来たのか
まず、この4%という数字の出どころを確認します。
2018年、Hoogkamer らが18人の高水準ランナーを対象に、新しいミッドソール素材と埋め込みプレートを組み合わせたプロトタイプを、当時の主要なレーシングシューズ2種と比べました。靴の重さを揃えたうえで、14・16・18 km/h の3速度で測っています。
結果は、18人全員でエネルギーコストが低下。平均で 4.16%、4.01% の改善(ともに p < 0.001)でした。これが「厚底は4%」として広まった数字です。
ただし、この研究の本文にはもう一つの数字が書かれています。18人の個人差は、1.59%から6.26%まで開いていた、と。著者自身が「considerable inter-individual variation(相当な個人間変動)」と書いています。「平均4%」は、最初の日から4倍近い幅を含んだ平均でした。
そして数字は、比べ方を変えると動きます。2025年のメタ分析(14研究)は、プレートありとプレートなしを比べる形で代謝の負担を集計し、約2〜3%(平均 −2.75%) という値を出しました。エビデンスの確実性は中程度(GRADE moderate)です。著者らは、比較された靴がプレート以外(フォームや形状)でも違うため、効果をプレート単独に帰することはできないと明記しています。
一方、AFT と従来型シューズを比べた別のメタ分析(17研究・281名)では、酸素摂取量で g = −0.44 [−0.59, −0.30]、そしてタイムトライアルの成績でも g = −0.23 [−0.37, −0.10] の改善が出ています。効果は実在します。ただし効果量としては小〜中程度です。

64人を測ったら、11人は「効かない側」だった
ここからが今回の主役です。ニュージーランド・ワイカト大学のグループが、2024年10月から2025年2月にかけて64人を実験室に集めました。事前登録済みのランダム化クロスオーバー試験です。
対象は男女32名ずつ、14.6歳から72.2歳。長距離ランナーが67%、レクリエーションレベルが52%、経験者が42%。かなり幅の広い集団です。
靴は AFT が Salomon S/Lab Phantasm 2、対照が Salomon Aero Glide 2。全員が最大酸素摂取量に対応する速度の70%で6分間、両方の靴で走りました。
結果です。
- 酸素摂取量は AFT で 35.0 ± 5.0、対照で 36.8 ± 4.9 mL·kg⁻¹·min⁻¹
- エコノミーの改善は平均 4.13 ± 1.6%
- ただし個人の値は −2.62% から 11.01%
- 事前に決めた閾値(2.5%)を超えたのは 53人(83%)、届かなかったのは 11人(17%)
血中乳酸も AFT のほうが低く(1.61 ± 0.52 vs 1.72 ± 0.60 mmol·L⁻¹)、平均としての効果は明確です。それでも、6人に1人は「意味のある改善」の側に入りませんでした。そして最も悪かった1人は、対照シューズより2.62%効率が落ちています。

何が「効く人」を分けたのか
この研究の本題は、ここからでした。研究チームは40を超える項目を測っています。身体計測、筋の受動的な硬さ、足の形態、足関節と母趾の最大筋力、片脚ホッピングの脚剛性、最大酸素摂取量、走行中のバイオメカニクス、主観評価。
そして、効いた側と効かなかった側で有意に違っていたのは、たった1つでした。
腓腹筋内側頭(ふくらはぎの内側の筋)の受動的な硬さです。アキレス腱付着部から8cm上の筋腹に、専用機器で微細な打撃を5回与えて振動の返り方を測り、脚長で割った値。効いた側のほうが硬く、平均差 33.4 N·m⁻²、Hedges' g = 0.86 [0.20, 1.51]、p = 0.046 でした。
相関で見ると、改善の大きさと関係していたのは次の項目です。
| 項目 | 相関 r [95%CI] | p |
|---|---|---|
| 腓腹筋内側頭の硬さ(脚長で正規化) | 0.35 [0.11, 0.55] | 0.005 |
| 舟状骨降下(アーチの落ち込み) | 0.31 [0.07, 0.52] | 0.012 |
| 腓腹筋内側頭の硬さ(生値) | 0.29 [0.04, 0.50] | < 0.05 |
| 足関節ギア比 | 0.26 [0.01, 0.48] | < 0.05 |
| 立位での底屈最大筋力 | −0.26 [−0.47, −0.01] | < 0.05 |
最後の1行に注目してください。符号がマイナスです。つまり、足首を蹴り出す筋力が弱い人ほど、厚底で得をしていた。「厚底の反発を活かすには脚の強さが要る」という直感とは逆の向きです。著者らも、これは事前の推測と反対だったと述べています。
重回帰にかけると、最終的に残った予測因子はふくらはぎの硬さ(B = 0.014, p = 0.015)とアーチの落ち込み(B = 1.849, p = 0.028)の2つ。モデル全体は有意でした(F(4, 58) = 5.45, p < 0.001)。
ただし、説明できた分散は 27.3%(調整済み 22.3%)です。

効かなかった項目のリストのほうが、実は役に立つ
この研究で最も実用的な情報は、有意差が出なかった項目の一覧です。
年齢、性別、身長・体重などの体格、ランニング歴、走る速さ、最大酸素摂取量、片脚ホッピングで測る脚のバネ、足関節の筋力、母趾の付け根の関節可動域、そして走行中のバイオメカニクス変数。これらはどれも、効いた側と効かなかった側を分けませんでした。競技レベル(レクリエーションか経験者か)でも差はありませんでした。
同じ結論に、別の集団・別の測定手法からも到達しています。スウェーデンのグループが2026年に報告した研究では、10kmを男子31分前後・女子37分前後で走る30名を対象に、大腿骨と脛骨の長さをDXAで、アキレス腱長を超音波で測りました。
- 性別で差はなかった:女性 4.21 ± 1.6%、男性 4.70 ± 2.0%(p = 0.50、Cohen's d = 0.26)
- 個人の幅は、女性 1.13〜6.35%、男性 0.24〜8.71%
- 身長・体重・足長・大腿骨長・脛骨長・アキレス腱長、いずれも改善量を予測しなかった(R² は 0.020〜0.097)
「アキレス腱が長い人は厚底が合う」「体重が軽いとフォームを潰しきれない」といった説明は、理屈としては筋が通ります。実際そう論じた文献もあります。しかし、DXAと超音波でちゃんと測った30人では、どれも成立しませんでした。
つまり現時点で、店頭で測れる情報から「あなたに厚底が効くか」を判定する方法は存在しません。