レース前のカフェインは、10kmで本当に効くのか ― 唐辛子成分との「組み合わせ」を確かめた最新研究
カフェインで10kmは平均約54秒速くなった。唐辛子成分の上乗せは確認されず、不眠や不安などの副作用も増えた。量・タイミング・睡眠との付き合い方を整理します。
「レース前にコーヒーを飲むと調子がいい気がする」「エナジージェルにカフェイン入りを選んでいる」。なんとなく続けているその習慣は、10kmのレースで本当に記録につながっているのでしょうか。
結論を先に
- カフェイン(体重1kgあたり6mg)を走る45分前にとると、10kmのタイムは平均で約54秒縮みました(95%信頼区間 17〜91秒)。市民ランナー〜育成レベルのランナーを対象にした、2026年のランダム化比較試験の結果です。
- 「カフェイン+唐辛子成分(カプサイシン)」の組み合わせは、プラセボより約70秒速くなりました。ただし、唐辛子成分そのものの効果も、組み合わせの相乗効果も確認されていません。 効いていたのはカフェインです。
- タイムは速くなったのに、心拍数と練習全体のきつさ(session-RPE)は変わりませんでした。 同じきつさのまま、速く走れていたことになります。
- 一方で、カフェインを含む条件では不眠・不安・頭痛・動悸(頻脈)が増えました。
- 持久系で効果が出やすい量は体重1kgあたり3〜6mg。それ以上増やしても副作用が増えるだけです。本番でいきなり試さず、ポイント練習で一度試してから使うのが原則です。
4つの条件を、同じ人が全部走った
ブラジルの研究グループが行ったこの研究(Melo ら 2026)は、次のような形で行われました。
- 対象は、ランダムに割り付けられた27名のランナー。そのうち20名(女性8名・男性12名、平均32歳)が全条件を完了しました。10kmの平均ペースは1kmあたり約5分10秒、週の走行距離は約25kmです。
- 同じ人が、4つの条件をそれぞれ別の日(7日以上空けて)に走りました。
- プラセボ(中身はでんぷん)
- カフェイン(体重1kgあたり6mg)
- カプサイシン(唐辛子の辛味成分、体重1kgあたり0.35mg)
- カフェイン+カプサイシン
- どれも見た目の同じカプセルで、走る45分前に飲みました。選手も研究者も、どれを飲んだか分からない「二重盲検」です。
- 400mトラックを1人で10km、自分のペースで走るタイムトライアルです。周りの選手に引っ張られないよう、全員単独で走りました。
同じ人が4条件すべてを走るので、「もともと速い人がカフェイン組に入った」という偏りが入りません。また、慣れのための試走で、同じ人が同じ10kmを走ったときのタイムのぶれは約34秒(1.1%)と小さく、測定の安定した研究でした。
結果: 効いたのはカフェイン、唐辛子は上乗せされなかった
4条件の10kmタイム(統計モデルで推定した平均)は次のとおりです。
- プラセボ: 3119.7秒(約52分00秒)
- カプサイシン: 3103.2秒
- カフェイン: 3064.4秒
- カフェイン+カプサイシン: 3050.1秒(約50分50秒)

ここで読み方に注意が必要です。
- 条件ごとに比べると、プラセボより統計的に確かに速かったのは「カフェイン+カプサイシン」だけ(約70秒)でした。カフェイン単独も約55秒速かったものの、比べる組み合わせが多いぶん厳しく判定され、有意にはなりませんでした。
- しかし、データ全体を「カフェインを含むか」「カプサイシンを含むか」の2軸で分析すると、効果があったのはカフェインだけ(平均54.2秒短縮)。カプサイシンの効果はなく、2つを組み合わせたときの相乗効果(交互作用)も見られませんでした。
著者ら自身も、組み合わせ条件が速かったのは「カフェインの効果として解釈すべきで、2つが足し算で効いた証拠ではない」と書いています。
唐辛子成分が持久走に効かないことは、この研究だけの話ではありません。14研究(183名)をまとめたメタ分析でも、カプサイシン類は有酸素系の持久力を高めず(効果量0.04)、きつさの感じ方(RPE)も変えませんでした(Grgic ら 2022)。効果が見られたのは、筋トレの反復回数のような「筋持久力」の場面だけです。
「辛いものを食べてから走ると速くなる」は、少なくとも10kmでは裏付けがありません。
同じきつさのまま、速く走れていた
この研究で面白いのは、何が変わって、何が変わらなかったかです。

- 心拍数は変わらず(どの条件も平均172〜174拍/分)。
- 練習全体のきつさ(session-RPE)も変わらず。
- 走った後の血中乳酸は、カフェイン+カプサイシンだけが高くなりました(プラセボ 7.04 → 9.49 mmol/L)。
- 「元気が出る感じ(活力感)」は、カフェインを含む条件で大きく増えました(組み合わせ条件では70%の人が感じた)。
- ペース配分の形(前半から後半への落ち方)は、どの条件も同じでした。全体が少し速くなった、という変化です。
自分のペースで走るレースでは、人は「きつさ」を目安にスピードを決めています。きつさが同じなのにタイムが速かったということは、カフェインによって「同じきつさで出せるスピード」が上がったと考えられます。カフェインは脳のアデノシンという疲労のサインを受け取る仕組みをブロックし、疲れの感じ方を和らげる、と説明されています。
副作用は「本番の夜」に出る
効果の裏側も見ておく必要があります。この研究では、カフェインを含む条件で、
- 不安
- 頭痛
- 不眠
- 頻脈(動悸)
の起こりやすさがプラセボより高くなりました。多くは24時間後には差がなくなっていましたが、不眠はレース当日の夜に出る副作用です。
国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解によると、カフェインが体内で半分に減るまでの時間(半減期)は平均4〜6時間で、人によって1.5〜10時間と大きく違います(Guest ら 2021)。小規模な研究ですが、朝にとったカフェインで睡眠に影響が出たのは13名中1名だった一方、18時にとると6名が眠れなくなりました。カフェインは寝つきを遅らせ、深い眠りを減らします。
駅伝やロードレースで「翌日も走る」「午後にもう1レースある」ときは、カフェインの効果と、その夜の睡眠を引き換えにすることになります。
使うなら: 量・タイミング・試し方
ISSNの見解と今回の研究をもとに、実際に使うときの目安をまとめます。

- 量は体重1kgあたり3〜6mg。 体重50kgなら150〜300mg、60kgなら180〜360mgです。最小限の有効量はまだはっきりしませんが、2mg/kgでも効く可能性があります。一方、9mg/kgのような多い量は副作用が増えるだけで、効果のためには必要ありません。 今回の研究の6mg/kgは、よく使われる範囲の上限です。
- タイミングは運動の約60分前が最も多い使い方。 ただし摂り方で変わり、カプセルより、ガムのほうが待ち時間は短くてよいとされています。今回の研究はカプセルで45分前でした。
- 効き方には個人差があります。 カフェインの代謝に関わる遺伝子の違いや、ふだんのコーヒーの量が、効き方や副作用の出方に関わると考えられています。
- 本番でいきなり試さない。 不安や動悸、頭痛が出る人もいます。ポイント練習やタイムトライアルで一度試し、走りと、その夜の眠りの両方を確かめてから本番で使いましょう。
- アンチ・ドーピング: カフェインは現在、禁止物質ではありませんが、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の監視対象です。ISSNは尿中濃度を一定の基準より低く保つよう勧めており、その基準は数時間で約10mg/kgをとった量に相当します。上記の目安の範囲なら、まず届きません。
ひとつ補足しておきます。今回の研究もISSNの見解も、成人が対象です。高校生以下の選手にカフェインの量をすすめる根拠は、今回の調査では確認できませんでした。中高生の選手は、指導者や医師と相談し、少なくとも本番でいきなり使わないようにしてください。
この研究の限界
- 全条件を完了したのは20名と少なく、7名が途中で抜けています。
- 対象は10kmを約51分で走る市民〜育成レベルのランナーです。実業団や箱根を走る選手で同じ効果が出るかは分かりません。
- ふだんのカフェイン摂取量(習慣)を分析に組み込んでいません。
- 著者の1人が栄養補助食品の会社の少数株主であることが開示されています(研究には関与していないと記載)。
一方で、ランダム化・二重盲検・プラセボ対照のクロスオーバー試験で、測定のぶれも小さく、カフェインと唐辛子成分の組み合わせを、自分のペースで走る10kmで調べた初めての研究としても、信頼して読める設計です。
まとめ: レース前のカフェインで押さえる5つのこと
- カフェインは10kmでも効く。 体重1kgあたり6mgで、平均約54秒の短縮。
- 唐辛子成分(カプサイシン)は上乗せされない。 組み合わせが速く見えたのは、カフェインの効果。
- 同じきつさで、速く走れる。 心拍も練習全体のきつさも変わらなかった。
- 量は3〜6mg/kgで十分。 多くしても副作用が増えるだけ。
- 副作用は夜に出る。 不眠・不安・頭痛・動悸。本番の前に、練習で一度試しておく。
トレーニングに活かすなら カフェインを試した日のポイント練習を、OptiRun BASE に記録しておきましょう。タイムやラップに加えて、その日のRPE(きつさ)と、翌朝のコンディション(睡眠・疲労感)を残しておくと、「自分にとって効いたのか」「眠りを削っていないか」を、自分のデータで判断できます。
参考文献
- Melo MS, Ferreira FDPV, Ferreira MHL, Couto BP, Drummond e Silva FG, Wanner SP, Drummond MDM. Effects of isolated and combined supplementation of caffeine and capsaicin on a self-paced 10-km running performance. European Journal of Applied Physiology. 2026. doi:10.1007/s00421-026-06456-7 (PMID 42836870)
- Guest NS, VanDusseldorp TA, Nelson MT, et al. International society of sports nutrition position stand: caffeine and exercise performance. Journal of the International Society of Sports Nutrition. 2021;18(1):1. (PMID 33388079)
- Grgic J, Memon AR, Chen S, et al. Effects of Capsaicin and Capsiate on Endurance Performance: A Meta-Analysis. Nutrients. 2022;14(21):4531. (PMID 36364793)