ATHLIVIA Running Science
#28栄養2026-10-28

レース前のカフェインは、10kmで本当に効くのか ― 唐辛子成分との「組み合わせ」を確かめた最新研究

カフェインで10kmは平均約54秒速くなった。唐辛子成分の上乗せは確認されず、不眠や不安などの副作用も増えた。量・タイミング・睡眠との付き合い方を整理します。

レース前のカフェインは、10kmで本当に効くのか ― 唐辛子成分との「組み合わせ」を確かめた最新研究
「レース前にコーヒーを飲むと調子がいい気がする」「エナジージェルにカフェイン入りを選んでいる」。なんとなく続けているその習慣は、10kmのレースで本当に記録につながっているのでしょうか。

結論を先に

4つの条件を、同じ人が全部走った

ブラジルの研究グループが行ったこの研究(Melo ら 2026)は、次のような形で行われました。

  1. プラセボ(中身はでんぷん)
  2. カフェイン(体重1kgあたり6mg)
  3. カプサイシン(唐辛子の辛味成分、体重1kgあたり0.35mg)
  4. カフェイン+カプサイシン

同じ人が4条件すべてを走るので、「もともと速い人がカフェイン組に入った」という偏りが入りません。また、慣れのための試走で、同じ人が同じ10kmを走ったときのタイムのぶれは約34秒(1.1%)と小さく、測定の安定した研究でした。

結果: 効いたのはカフェイン、唐辛子は上乗せされなかった

4条件の10kmタイム(統計モデルで推定した平均)は次のとおりです。

10kmタイムトライアルの条件別の短縮幅。プラセボと比べて、カプサイシンは約17秒、カフェインは約55秒、カフェインとカプサイシンの組み合わせは約70秒速かった。統計的にプラセボとの差が確かだったのは組み合わせのみ。全条件をまとめた分析では、カフェインを含むかどうかで平均54.2秒の差があり、カプサイシンの効果と相乗効果は認められなかった。

ここで読み方に注意が必要です。

著者ら自身も、組み合わせ条件が速かったのは「カフェインの効果として解釈すべきで、2つが足し算で効いた証拠ではない」と書いています。

唐辛子成分が持久走に効かないことは、この研究だけの話ではありません。14研究(183名)をまとめたメタ分析でも、カプサイシン類は有酸素系の持久力を高めず(効果量0.04)、きつさの感じ方(RPE)も変えませんでした(Grgic ら 2022)。効果が見られたのは、筋トレの反復回数のような「筋持久力」の場面だけです。

「辛いものを食べてから走ると速くなる」は、少なくとも10kmでは裏付けがありません。

同じきつさのまま、速く走れていた

この研究で面白いのは、何が変わって、何が変わらなかったかです。

カフェインとカプサイシンをとったときに、10km走で変わったものと変わらなかったものの一覧。10kmタイムはカフェインで速くなった。心拍数(約172〜174拍/分)と練習全体のきつさ(session-RPE)は条件で差がなかった。走った後の血中乳酸はカフェインとカプサイシンの組み合わせだけ高かった(9.49 mmol/L、プラセボは7.04)。活力感は増え、不安・頭痛・不眠・頻脈も増えた。

自分のペースで走るレースでは、人は「きつさ」を目安にスピードを決めています。きつさが同じなのにタイムが速かったということは、カフェインによって「同じきつさで出せるスピード」が上がったと考えられます。カフェインは脳のアデノシンという疲労のサインを受け取る仕組みをブロックし、疲れの感じ方を和らげる、と説明されています。

副作用は「本番の夜」に出る

効果の裏側も見ておく必要があります。この研究では、カフェインを含む条件で、

の起こりやすさがプラセボより高くなりました。多くは24時間後には差がなくなっていましたが、不眠はレース当日の夜に出る副作用です。

国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解によると、カフェインが体内で半分に減るまでの時間(半減期)は平均4〜6時間で、人によって1.5〜10時間と大きく違います(Guest ら 2021)。小規模な研究ですが、朝にとったカフェインで睡眠に影響が出たのは13名中1名だった一方、18時にとると6名が眠れなくなりました。カフェインは寝つきを遅らせ、深い眠りを減らします。

駅伝やロードレースで「翌日も走る」「午後にもう1レースある」ときは、カフェインの効果と、その夜の睡眠を引き換えにすることになります。

使うなら: 量・タイミング・試し方

ISSNの見解と今回の研究をもとに、実際に使うときの目安をまとめます。

カフェインを使うときの目安。持久系で効果が出やすいのは体重1kgあたり3〜6mgで、体重50kgなら150〜300mg、60kgなら180〜360mg。9mg/kgのような多い量は副作用が増えるだけで必要ない。最も多く使われるタイミングは運動の60分前(今回の研究はカプセルで45分前)。半減期は平均4〜6時間で、夕方以降は睡眠に響きやすい。

ひとつ補足しておきます。今回の研究もISSNの見解も、成人が対象です。高校生以下の選手にカフェインの量をすすめる根拠は、今回の調査では確認できませんでした。中高生の選手は、指導者や医師と相談し、少なくとも本番でいきなり使わないようにしてください。

この研究の限界

一方で、ランダム化・二重盲検・プラセボ対照のクロスオーバー試験で、測定のぶれも小さく、カフェインと唐辛子成分の組み合わせを、自分のペースで走る10kmで調べた初めての研究としても、信頼して読める設計です。

まとめ: レース前のカフェインで押さえる5つのこと

  1. カフェインは10kmでも効く。 体重1kgあたり6mgで、平均約54秒の短縮。
  2. 唐辛子成分(カプサイシン)は上乗せされない。 組み合わせが速く見えたのは、カフェインの効果。
  3. 同じきつさで、速く走れる。 心拍も練習全体のきつさも変わらなかった。
  4. 量は3〜6mg/kgで十分。 多くしても副作用が増えるだけ。
  5. 副作用は夜に出る。 不眠・不安・頭痛・動悸。本番の前に、練習で一度試しておく。
トレーニングに活かすなら カフェインを試した日のポイント練習を、OptiRun BASE に記録しておきましょう。タイムやラップに加えて、その日のRPE(きつさ)と、翌朝のコンディション(睡眠・疲労感)を残しておくと、「自分にとって効いたのか」「眠りを削っていないか」を、自分のデータで判断できます。

参考文献

  1. Melo MS, Ferreira FDPV, Ferreira MHL, Couto BP, Drummond e Silva FG, Wanner SP, Drummond MDM. Effects of isolated and combined supplementation of caffeine and capsaicin on a self-paced 10-km running performance. European Journal of Applied Physiology. 2026. doi:10.1007/s00421-026-06456-7 (PMID 42836870)
  2. Guest NS, VanDusseldorp TA, Nelson MT, et al. International society of sports nutrition position stand: caffeine and exercise performance. Journal of the International Society of Sports Nutrition. 2021;18(1):1. (PMID 33388079)
  3. Grgic J, Memon AR, Chen S, et al. Effects of Capsaicin and Capsiate on Endurance Performance: A Meta-Analysis. Nutrients. 2022;14(21):4531. (PMID 36364793)

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