ATHLIVIA Running Science
#16コンディション2026-08-19

疲労は一枚岩じゃない ― すぐ抜ける疲労と、なかなか抜けない疲労

「脚が重い」と「なんだかやる気が出ない」は、実は別の場所で起きている疲労かもしれません

疲労は一枚岩じゃない ― すぐ抜ける疲労と、なかなか抜けない疲労
「昨日は脚のダルさが残っていたのに、今日はスッキリ動ける。でも逆に、脚は軽いのに練習する気になれない日もある」

こんな経験はないでしょうか。実はこの2つの"疲労"、体の中ではまったく別の場所で起きている可能性があります。今回は、疲労を1つの数値としてではなく「すぐ抜ける疲労」と「なかなか抜けない疲労」の2つに分けて考える、スポーツ科学の"2区画モデル"という考え方を紹介します。

結論を先に

運動によって生じる疲労は、大きく分けて「末梢性疲労(まっしょうせいひろう)」と「中枢性疲労(ちゅうすうせいひろう)」の2種類があると考えられています。末梢性疲労は筋肉そのものの疲れ、中枢性疲労は脳から筋肉への「動け」という指令が弱くなることによる疲れです。先行研究では、この2つが同時に起こりつつも、大きさや回復のパターンが異なりうることが示されています。OptiRun BASEは、この「疲労は一枚岩ではない」という考え方をもとに、独自の疲労・回復モデルを設計しています。

疲労には少なくとも2種類ある

疲労というと、多くの人は「筋肉が張っている」「脚が重い」といった感覚をイメージすると思います。ですが運動生理学の世界では、疲労はもう少し細かく分解して考えられています。

大きな分け方が、筋肉そのものの機能低下である「末梢性疲労」と、脳や脊髄からの神経の指令がうまく伝わらなくなることによる「中枢性疲労」です。この2つは測定方法も異なります。研究では、筋肉に直接電気刺激を与えて出る力(誘発筋力)を末梢性疲労の指標に、自分の意思でどれだけ本来の力を発揮できているか(随意活性化率)を中枢性疲労の指標にするのが一般的です。

末梢性疲労と中枢性疲労の対比表。末梢性疲労は筋肉そのもの(筋線維)で起きて筋肉が収縮する力が落ち、電気刺激による誘発筋力で測る。中枢性疲労は脳・脊髄で起きて「動け」という指令が弱くなり、随意活性化率で測る。体感はそれぞれ「脚が重い」「やる気が出ない」に近いことを整理した模式図

この2つが同時に、しかし別々の大きさで起こることを示した研究があります。ハーフマラソンを走った男女18名を対象にした研究では、レース直後に随意活性化率(中枢性疲労の指標)が男性で6%・女性で4%低下し、誘発筋力(末梢性疲労の指標)も男性で6%・女性で8%低下しており、ランニングは中枢と末梢の両方の疲労を引き起こすことが確認されています(Boccia et al. 2018, n=18)。男女で多少の差はありますが、どちらの性別でも「筋肉の疲れ」と「神経系の疲れ」が両方とも起きていた、というのがポイントです。

つまり、疲労を「体力が何%落ちた」という1つの数字だけで見てしまうと、実際には性質の異なる2つの現象が混ざったまま扱われていることになります。

すぐ抜ける疲労、なかなか抜けない疲労

ここからが本題です。末梢性疲労と中枢性疲労は、回復のスピードも同じとは限りません。

標高差1264mの下り主体トレイルラン(6.5km)を行ったランナー23名を対象にした研究では、最大随意トルクが走行直後に膝伸展筋で約19%・足底屈筋で約25%低下しましたが、2日後には低下幅がそれぞれ約9%・約10%まで縮小しており、時間の経過とともに疲労からの回復が進むことが示されています(Giandolini et al. 2016)。この研究ではさらに、長引く筋力低下は主に中枢性の要因(随意活性化の低下)に関連していると考察されており、末梢と中枢とで回復の道筋が異なりうることを示唆しています。

もう1つ、興味深い研究があります。同じ169kmのウルトラマラソンを、休みなく一気に走った場合と、4日間に分けて走った場合を比較した研究です。単一区切りで走ったグループの方がレース直後の中枢性疲労(随意活性化の低下)が大きかった一方(-23% 対 -7%, P<0.01)、末梢性疲労(誘発筋力の低下)の回復は分割走行グループの方が時間を要しており、中枢性疲労と末梢性疲労が異なる回復パターンを示すことが報告されています(Besson et al. 2020, n=31)。走り方(一気に走るか、日を分けて走るか)によって、中枢と末梢のどちらに負担が偏るかが変わってくる、というのは示唆的です。

同一コース169kmのウルトラマラソンを一気に走った群では中枢性疲労(随意活性化の低下)が分割群より大きく出た一方、4日間に分けて走った群では末梢性疲労(誘発筋力の低下)の回復が長引いたことを、方向のみで示した整理図(Besson 2020・ランナー31名の抄録に基づく)

ここで正直にお伝えしておきたいのですが、「末梢の回復が中枢よりも何倍速い」といった具体的な数値の対比までは、この3本の研究だけからは断定できません。言えるのは、「末梢性疲労と中枢性疲労は、回復の仕方が異なりうる」という、方向性としての示唆にとどまります。ウルトラマラソン(169km)や下り主体のトレイルランという、いずれもかなり負荷の大きい特殊な条件での研究である点にも注意が必要です。

OptiRun BASEはこの考え方をどう扱っているか

OptiRun BASEでは、この「末梢性疲労と中枢性疲労は別々に扱ったほうがよい」という考え方をベースに、独自の疲労・回復モデルを組んでいます。ここは先行研究の直接的な引用ではなく、あくまでOptiRun BASEが設計した計算モデルであることを明記しておきます。

具体的には、1回1回のトレーニングによる負荷を、末梢への負荷と中枢への負荷の2つに分けて計算します。強度が高い練習ほど中枢への配分が大きくなるように設定されており、さらに走った距離が長いほど、着地の衝撃を積み重ねる末梢側の負荷が上乗せされる仕組みです。ランニング特有の「着地の繰り返しによる筋肉・腱への負担」を反映させる狙いがあります。

分けた負荷は、それぞれ独立に時間とともに減っていく(回復していく)ものとして計算されます。ポイントは、末梢側は比較的早く回復していく設定になっている一方、中枢側はゆっくりとしか回復しない設定になっている点です。先行研究で示された「末梢と中枢で回復のパターンが異なりうる」という考え方を、実際の計算モデルに落とし込んだ形です。

OptiRun BASEの2区画モデルの模式図。1回のトレーニングを、距離や着地の衝撃が長いほど増える末梢への負荷と、強度が高いほど増える中枢への負荷に分け、末梢の疲労は比較的早く、中枢の疲労はゆっくりと回復する設定で別々に減衰させることを示す

さらにOptiRun BASEは、記録された疲労感・気分・心拍変動(HRV)などのコンディションデータをもとに、この回復の速さを個人ごとに微調整しています。同じトレーニングをしても、末梢の疲れが長引きやすい人もいれば、中枢側の疲れが蓄積しやすい人もいる、という個人差を見込んだ設計です。実際にこうした個人差の傾向が続くと、「中枢に疲労が蓄積しやすいタイプ」「末梢の疲れが長引きやすいタイプ」「回復が全体的に速いタイプ」といった目安として、アプリ内のコンディション関連の表示に反映される仕組みになっています。

日々のコンディション記録(疲労感・気分・心拍変動)をもとに末梢と中枢それぞれの疲労の抜け方を本人の傾向に合わせて補正し、「中枢に溜まりやすい」「末梢が長引きやすい」などのタイプの目安を表示するまでの流れを示した模式図

ここでも改めて強調しておきたいのは、この配分の比率や回復の速さの具体的な数値そのものは、先行研究で直接証明された値ではないということです。あくまで「筋肉の疲れ(末梢)は着地の衝撃と関係が深く、神経系の疲れ(中枢)は運動強度や積み重なる負荷と関係が深い」という一般的な特性を参考に、OptiRun BASEが独自に設計した計算モデルです。数字の1つ1つを絶対視するのではなく、「今週は中枢寄りの疲労が溜まっていそうだ」「今日は末梢の疲れは抜けているはずだ」といった、体調を考える上でのヒントとして捉えていただくのが正しい使い方です。

なお、運動生理学にはこの他に「乳酸性作業閾値(LT)」という、持続可能な運動強度を測る別の指標もありますが、こちらはOptiRun BASEには実装されていません。混同のないよう補足しておきます。

使う上での注意点

最後に、限界と注意点を正直にお伝えします。今回紹介した3つの研究については、詳細な数値やp値までは確認できていません。ここで扱っているのは、あくまで公表されている主要な結果までです。また、対象となった運動もハーフマラソン・下り主体のトレイルラン・169kmのウルトラマラソンと、いずれも比較的負荷の大きいものです。日常的な普段のジョグや短い練習でも同じ現象が同じ大きさで起こるとは限りません。

疲労を「末梢」と「中枢」に分けて考えること自体は、複数の研究で支持されている妥当な枠組みです。ただし、その具体的な回復スピードの数値化には、個人差や運動の種類による違いが大きく関わってきます。OptiRun BASEの疲労・回復モデルも、そうした不確実性を踏まえた上での「目安」として設計されているとご理解ください。

トレーニングに活かすなら 「なんとなく脚は軽いのに、練習に身が入らない」「脚は重いけど、気持ちは前向き」といった、ズレを感じる日があれば、それは末梢と中枢のどちらかに疲労が偏っているサインかもしれません。OptiRun BASEのコンディション記録に日々の疲労感や気分を残しておくと、こうした偏りを自分の傾向として把握しやすくなります。

参考文献

  1. Boccia G, Dardanello D, Tarperi C, Festa L, La Torre A, Pellegrini B, Schena F, Rainoldi A (2018). Women show similar central and peripheral fatigue to men after half-marathon. European Journal of Sport Science, 18(5), 695-704.
  2. Giandolini M, Horvais N, Rossi J, Millet GY, Morin JB, Samozino P (2016). Acute and delayed peripheral and central neuromuscular alterations induced by a short and intense downhill trail run. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 26(11), 1321-1333.
  3. Besson T, Rossi J, Le Roux Mallouf T, Marechal M, Doutreleau S, Verges S, Millet GY (2020). Fatigue and Recovery after Single-Stage versus Multistage Ultramarathon Running. Medicine and Science in Sports and Exercise, 52(8), 1691-1698.

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