ATHLIVIA Running Science
#15テーパリング2026-08-12

同じテーパーでも効き方が違う理由 ― 「自分専用」の調整期間を見つける

回復の速さは人それぞれ。個別化というテーパーの次のステップを考えます。

同じテーパーでも効き方が違う理由 ― 「自分専用」の調整期間を見つける
「先輩と同じテーパーをやったのに、なぜか自分だけ本番で動きが重かった」――そんな経験はありませんか。同じ練習メニュー、同じ調整期間のはずなのに、当日の仕上がりは人によってまるで違う。今日は、その"効き方の違い"がなぜ起きるのか、そしてどう向き合えばいいのかを、研究とデータから考えます。

結論を先に

テーパー(レース前の練習量を落とす調整期間)の"正解"は、実は一人ひとり違います。同じ負荷をかけても、パフォーマンスが伸びる人と伸び悩む人に分かれることが研究で示されていますし、どの体の指標を優先するかによって「個人差を抑えやすい調整法」も変わってきます。専門家の間でも「回復に明確な単一のタイムラインは存在しない」という指摘は共通認識になりつつあります。だからこそ、テーパーは"一般的な正解"を探すのではなく、"自分の反応"を記録して学習していくプロセスとして捉えるのが理にかなっています。

同じ練習でも、「オーバーリーチング」に落ちる人と落ちない人がいる

まず押さえておきたいのが、同じ負荷を受けても体の反応は一様ではない、という事実です。

トレーニングされた男性トライアスロン選手33名を対象にした研究では、同一の過負荷トレーニング(3週間)を受けた23名のうち、11名が「機能的オーバーリーチング」(パフォーマンス低下と高い自覚的疲労を伴う状態)と診断され、残り12名は同じ負荷でもパフォーマンス低下のない「急性疲労」にとどまりました。その後4週間のテーパーでは、急性疲労にとどまった群の方が機能的オーバーリーチング群よりもピークパフォーマンスの伸びが大きく、感染症の発生率も機能的オーバーリーチング群で70%と、急性疲労群の20%・対照群の10%より高かったことが報告されています(Aubry et al., 2014, Medicine and Science in Sports and Exercise)。

つまり、「まったく同じ練習メニューを受けても、そこからどれだけ深く疲労を蓄積するか」「その後のテーパーでどれだけ回復して伸びるか」は、個人によってはっきり分かれるということです。同じ負荷をかけたのに、片方は本番で調子が上向き、もう片方は疲労を引きずったまま感染症のリスクまで高めてしまう――この研究は、その分岐が実際に起こることを示しています。

これは「メニューが悪かった」という話ではありません。同じ入力(負荷)に対して、出力(回復とパフォーマンスの伸び)が人によって違う、という単純だけれど見落とされがちな事実です。だとすれば、「みんなに同じテーパーを当てはめる」という発想そのものを見直す必要があります。

どの指標を伸ばしたいかで、「効く調整法」も変わる

もう一つ興味深いのが、「個人差を抑えやすい処方法」自体が、何を測るかによって変わってくるという報告です。

レクリエーションランナー28名を心拍数ベース・レースペースベース・心拍変動(HRV)ベースの3種類のトレーニング処方群(各9〜10名)に分けた6週間の介入研究では、7kmタイムトライアルの個人間反応のばらつき(変動係数)はレースペースベース処方群が0.82と最も小さかった一方、最大酸素摂取量では心拍変動ベース処方群の変動係数が0.75と最も小さく、指標によって「個人差を抑えやすい処方法」が異なることが示されました(Ranieri et al., 2025, Medicine and Science in Sports and Exercise)。

この研究はテーパー期そのものを扱ったものではなく、通常のトレーニング期における処方法の比較です。それでも示唆は大きいと感じます。「タイムトライアルのタイムを揃えたいのか」「VO2maxのような生理学的な指標を揃えたいのか」によって、有効な調整の切り口が変わる――つまり、「万人に効く唯一の調整法」を探すこと自体が、そもそも成立しにくい問いなのかもしれない、ということです。

専門家も「個別化」を今後の課題として認めている

ここまで見てきた「個人差」は、決して一部の研究者だけの主張ではありません。持久系アスリート174名を含む14研究のメタ解析では、トレーニング量を41〜60%削減し強度と頻度を維持する8〜14日間のテーパーが最大の効果(標準化平均差 SMD=-1.47)を示した一方、著者らは考察の中で「トレーニング負荷削減からの回復には個人差があり、明確な単一のタイムラインは存在せず、それに伴い最適なテーパー期間も個人によって異なる」と指摘し、結論でも「テーパー戦略の個別化をさらに探求すべき」と今後の課題として明記しています(Wang et al., 2023, PLoS One)。

「8〜14日、量を41〜60%削減」という数値は、集団としての平均的な最適解を示す貴重なエビデンスです(この点は以前の記事「テーパーはなぜ量を減らすと効くのか」でも詳しく取り上げました)。ただし、この数値そのものがゴールなのではなく、あくまで出発点です。メタ解析を行った研究者自身が「それでもなお個人差が残る」と正直に認めている、という点を強調しておきたいと思います。集団の平均値を知ったうえで、自分がその平均からどうずれているかを把握していく――これが個別化の入り口になります。

「自分専用」のテーパーに近づけるという考え方

では、個人差があると分かったところで、実際にどう向き合えばいいのでしょうか。ここで参考になるのが、OptiRun BASE が採用している考え方です。

一つのアプローチは、回復のタイプによってテーパーの長さや強度の落とし方を補正するという発想です。同じ「テーパーで疲労を抜く」といっても、回復が速いタイプなのか、疲労が中枢神経系に蓄積しやすいタイプなのか、末梢(筋肉や腱)に疲労が残りやすいタイプなのかによって、必要な期間や最終盤の負荷の落とし幅は変わってきます。OptiRun BASE では、こうした回復タイプの違いに応じて、テーパー期間や最終負荷を個別に補正する仕組みを実装しています。あわせて、直近のピーク時の週間走行距離が多い(目安として100km以上)場合は疲労の蓄積も大きいと見て期間をやや長めに、少ない(目安として40km未満)場合は短めに補正するなど、走り込みの量そのものも調整の材料にしています。

もう一つ重要なのが、過去の実績から学習するという発想です。一度きりのテーパーで「これが自分の正解」と決め打ちするのではなく、過去のテーパーで実際に疲労がどれだけ抜けたか、レースの結果がどうだったかを振り返り、次回の計画に反映していく。たとえば過去のテーパーで疲労が十分に抜けきらなかった実績があれば、次はやや長め・やや軽めに倒す。逆に、疲労は十分抜けたのに自己ベストが伸び悩んだ実績があれば、テーパーのかけすぎ(ディトレーニング、練習不足による体力低下)を疑って、次は短め・やや負荷を残す方向に補正する。こうした学習の考え方は、OptiRun BASE のテーパー機能の中で、個人の過去実績を反映する仕組みとして組み込まれています。

さらに一歩進んだ考え方として、集団の平均的な傾向(いわば「みんなの場合はこうなりやすい」という前提)を出発点にしつつ、過去のレースでの成功度に応じて重み付けした個人の観測データと組み合わせ、個人ごとの最適値を推定していくアプローチも採用されています。データが少ない最初のうちは集団の平均に近い提案になり、自分自身のテーパー経験が積み重なるほど、提案が"自分仕様"に寄っていく、というイメージです。

そして、テーパーが終わったら終わりではありません。計画通りに実行できたか、疲労がどれだけ抜けたか、レースの成果はどうだったかを振り返り、次に活かす――この「振り返りのループ」自体を仕組み化しているのも特徴です。OptiRun BASE では、テーパー期間の忠実度・疲労の抜け具合・レース成果を組み合わせて評価するスコアを算出し、5段階の評価としてフィードバックする機能を持っています。

誠実に伝えたい限界と注意点

ここまで紹介してきた個別化の考え方には、限界もあります。正直にお伝えしておきます。

まず、Aubry et al. (2014) や Ranieri et al. (2025) は、対象者数がそれぞれ33名・28名と、決して大規模な研究ではありません。公表されている範囲を超える細かな条件までは確認できていない点もあわせてご留意ください。トライアスロン選手やレクリエーションランナーという特定の集団での結果であり、すべてのランナーにそのまま当てはまるとは限りません。

また、Wang et al. (2023) のメタ解析が示す「8〜14日、量41〜60%削減」という数値は、あくまで集団としての傾向です。著者ら自身が明記しているとおり、個人差を定量化するデータや、個別化の具体的な方法論そのものは、この研究にはまだ含まれていません。「個別化すべきだ」という問題提起はされていますが、「こうすれば誰でも個別最適化できる」という確立された答えが出ているわけではないのが、2026年時点での研究の実情です。

なお、OptiRun BASE は乳酸カーブや乳酸性作業閾値(LT)を測定・分析する機能は実装していません。テーパーの個別化は、あくまで走行距離や自覚的な疲労・レース実績といった記録可能なデータをもとにした補正であり、血液検査や乳酸測定のような生理学的な指標に基づくものではない点もご理解ください。

個別化とは「魔法のアルゴリズムが自分専用の正解を言い当ててくれる」ことではなく、「集団の知見を土台にしながら、自分自身のデータを積み重ねて少しずつ精度を上げていく」地道なプロセスだと捉えるのが、誠実な向き合い方だと思います。

トレーニングに活かすなら テーパーは一度やって終わりではなく、「実行→振り返り→次に活かす」を繰り返すことで、少しずつ自分に合った形が見えてきます。OptiRun BASE は、回復タイプや走行量、過去のテーパー実績をもとにテーパー計画を個別に補正し、実施後には計画忠実度・疲労の抜け具合・レース成果を振り返るための記録機能を備えています。次のレースに向けて、自分の"効き方"を記録から見つけていきたい方はぜひ活用してください。

参考文献

  1. Aubry A, Hausswirth C, Louis J, Coutts AJ, Le Meur Y. Functional overreaching: the key to peak performance during the taper? Medicine and Science in Sports and Exercise. 2014;46(9):1769-1777. (PMID 25134000)
  2. Ranieri LE, Casado A, Martin D, Trujillo-Colmena D, Gil-Arias A, Kenneally M, Jiménez A. Performance and Physiological Effects of Race Pace-Based Versus Heart Rate Variability-Guided Training Prescription in Runners. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2025;57(7):1510-1522. (PMID 39935030)
  3. Wang Z, Wang YT, Gao W, Zhong Y. Effects of tapering on performance in endurance athletes: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2023;18(5):e0282838. (PMID 37163550)

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