疲れ切ってテーパーに入るなら、練習を減らすだけでは足りないかもしれない ― 睡眠を整えるテーパー
疲労が深い選手ほどテーパーで伸びにくく、眠りも浅い。練習量に加えて「寝かせ方」を整えた研究を読み解きます。
「練習はしっかり落としたのに、レース当日まで体が重いままだった」。走り込み期の疲れを抱えたままテーパーに入った経験は、多くのランナーにあると思います。疲れが深いとき、練習を減らすことのほかに打てる手はあるのでしょうか。
結論を先に
- 走り込み期の疲れが深い選手(機能的オーバーリーチング)は、同じようにテーパーをしても本番で伸びにくい。同じ研究グループが競泳選手で調べたところ、疲れが浅い群は平均 +1.8% 伸び、疲れが深い群は平均 −0.5% と逆に落ちていました。
- 疲れが深い群は、テーパー前の時点で睡眠が約47分短く、寝る前に体温が下がりにくい傾向がありました。
- そこで、テーパーに睡眠を整える工夫(睡眠教育・寝具・夕方の冷却)を足した2026年の研究では、疲れが深い群も平均 +0.4% と、疲れが浅い群(+1.2%)との差が統計的にはっきりしなくなりました。
- ただしこの研究には対照群がありません。「睡眠対策が効いた」と言い切れる段階ではなく、「疲れが深い選手ほど、練習量の調整に加えて睡眠に手を入れる価値がありそうだ」という示唆にとどまります。
疲れが深い選手は、テーパーで伸びにくい
テーパー(レース前に練習量を落とす調整期間)は、走り込みで蓄えた体力を残したまま疲労だけを抜くための期間です。ただし効き方には個人差があり、その差を生む要因のひとつが「テーパーに入る時点でどれだけ疲れているか」だと考えられています(以前の記事「同じテーパーでも効き方が違う理由」でも、トライアスロン選手のデータを紹介しました)。
フランスの研究グループ(Bretonneau ら)は、国内トップレベルの若い競泳選手26名を本番の10週前から追跡しました。安静時心拍・一定ペースで泳いだときの心拍・心拍の戻り・気分の質問票(活気と疲労)・泳ぎの力の5種類を、本番10週前と3週前に測り、その変化から選手を2つに分けています。
- 急性疲労群(14名): 小〜中程度の悪化はあるが、大きな悪化は1項目まで
- 機能的オーバーリーチング群(12名): 2つ以上の分野で大きな悪化が出ている
両群の練習負荷に差はありませんでした。つまり、同じ練習を受けて、疲れの溜まり方が人によって違ったということです。
そして本番。テーパー直前から本番までの記録の変化は、急性疲労群が +1.80% 伸びたのに対し、オーバーリーチング群は −0.49% と逆に落ちていました(2024年報告)。

もうひとつ見逃せないのは、疲れが深い群のほうが、練習の落とし方が小さかったことです。推奨されるテーパーは2週間で練習量を40〜60%減らすことですが、実際には急性疲労群が12日間で −30%、オーバーリーチング群は10日間で −23%。補強(陸上トレーニング)の負荷にいたっては、オーバーリーチング群だけ +38% と増えていました。疲れている選手ほど不安から練習を減らしきれない、という現場でよくある光景が数字にも出ています。
疲れが深い選手は、眠りも浅かった
同じ研究では、睡眠も脳波計のヘッドバンドと深部体温カプセルで測っていました。オーバーリーチング群には、急性疲労群と比べて次の特徴がありました。
- 総睡眠時間が短い: テーパー直前の時点で 7時間08分(急性疲労群は 7時間55分)
- 日中の眠気が強い(眠気の質問票で 10.9点 vs 7.9点)
- 寝る前に深部体温が下がりにくい: 就寝前1時間の低下は −0.14℃(急性疲労群は −0.23℃。統計的には差の傾向にとどまる)

夜の始まりの体温の下がり方は、寝つきに大きく関わることが知られています。この研究でも、寝る前後の体温の動きと夜中に目が覚める回数との間に関連が見られました。また、走り込み期に入ると両群とも寝る時刻が遅くなり、ベッドにいる時間そのものが短くなっていました。
これは観察研究なので、「睡眠が悪いから疲れが抜けない」のか「疲れているから眠りが浅い」のか、向きまでは分かりません。それでも著者らは、練習量を減らすだけでは疲れが抜けきらない選手に、睡眠という別の回復の入り口があるのではないかと考え、次の研究に進みました。
睡眠を整える3つの工夫を、テーパーに足した
2026年に発表された続報では、同じ3施設の別の競泳選手27名(急性疲労群13名、オーバーリーチング群14名)に、テーパー前後で次の3つを全員に実施しました。
- 睡眠教育(1時間×2回): テーパーの2〜3週前に睡眠の仕組みと効用、1〜2週前に睡眠不足の害・昼寝の使い方・寝つくための呼吸法やリラクセーションを、専門家が対面で指導
- 熱を逃がしやすいマットレスパッド(14夜): 体の熱を伝導で逃がすジェル入りのパッドを、普段の寝具の上に敷く
- 夕方の冷却(テーパー最初の5日間): 練習後1時間以内(18〜20時)に、極低温の冷却室に約3分。設備がない施設では温水(40℃)と冷水(8℃)に2分ずつ交互に7回入る交代浴
いずれも「寝る前に深部体温を下げやすくする」「寝る時刻を早める」ことを狙った組み合わせです。
結果はこうでした。
- 本番の記録の変化: 急性疲労群 +1.2%、オーバーリーチング群 +0.4%。群間の差は統計的に有意ではありませんでした(差は −0.8ポイント、95%信頼区間 −2.7〜+1.2)。
- 0.5%を超えて伸びた選手(競泳でメダルの可能性を左右するとされる最小の伸び幅)の割合: 急性疲労群 82%、オーバーリーチング群 67%。2024年の報告では、オーバーリーチング群でこの基準を超えたのは25%でした。
- 睡眠: 寝つくまでの時間が約8分短くなりました(加速度計で、急性疲労群 12.5分→3.6分、オーバーリーチング群 9.9分→5.0分)。一方で総睡眠時間は増えていません(両群とも約7時間15分前後のまま)。
- 深部体温: 消灯前後の体温がテーパー前より低く、夜の体温が底に達するまでの時間も短くなっていました。
- 介入による有害事象はありませんでした。

この結果をどう読むか
ここは慎重に読む必要があります。
まず、この研究には「睡眠対策をしないテーパー」の対照群がありません。2024年の結果と並べると改善したように見えますが、選手も違えば、テーパーでの練習の落とし方も違います(2026年は急性疲労群 −38%、オーバーリーチング群 −32% と、2024年より推奨に近づいていました)。オーバーリーチング群の伸びが睡眠対策によるものか、練習をより減らせたことによるものかは、切り分けられません。著者自身も、従来のテーパーとの直接比較がないことを最大の限界として挙げています。
また、3つの工夫を同時に行っているので、どれが効いたのかも分かりません。若い競泳選手のデータで、ランナーに同じことが言えるかも未検証です。実際、持久系ランナー21名を対象にした別の研究では、熱を逃がすマットレスパッドを使っても睡眠の指標は変わらなかったと報告されています(Chauvineau ら 2023・2024。本記事では抄録のみ確認)。道具ひとつで眠りが変わる、という期待は控えめにしておくのが妥当です。
それでも、睡眠時間を増やさなくても、寝つきと寝る前の体温の下がり方は変えられたこと、そして疲れが深い選手でも多くがテーパーで伸びたことは、現場にとって意味のある材料です。
ランナーが今日からできること
この研究から、ランナーやコーチが無理なく取り入れられることを整理します。高価な設備は必須ではありません。
- テーパーに入る前に、自分の疲れ具合を確かめる。 研究の出発点は「誰が疲れ切っているか」を見分けることでした。朝の安静時心拍、いつものジョグでの心拍、主観的な疲労感がそろって悪化しているなら、疲れが深いサインです。
- 疲れが深いなら、練習は思い切って減らす。 研究では、疲れている選手ほど練習を減らしきれていませんでした。補強やポイント練習を「念のため」で足さないことが第一歩です。
- 寝る時刻を早め、一定にする。 走り込み期は寝る時刻が遅くなりがちでした。テーパーは寝る時刻を戻す好機です。
- 寝る前に体温を下げやすくする。 冷却室がなくても、研究で代わりに使われた交代浴(温水と冷水に交互に入る)を夕方の練習後に取り入れるなど、身近な方法で同じ方向を狙えます(ただし、個々の方法の効果をこの研究が単独で確かめたわけではありません)。
- 睡眠について一度学ぶ。 睡眠教育はこの研究で最も手軽な要素です。チームなら、テーパーの2〜3週前に一度時間を取る価値があります。
トレーニングに活かすなら テーパーの効き方は、入る時点の疲れの深さで変わります。OptiRun BASE では、日々の練習負荷(sRPE)や朝の体調記録、睡眠の記録を一つの画面で振り返れます。テーパー前に「疲れが抜けきっていないサイン」が重なっていないかを確かめ、練習の落とし方と睡眠の整え方を決める材料にしてください。
参考文献
- Bretonneau Q, Morales-Artacho A, Pla R, Bosquet L; D-Day Consortium. Implementation of Sleep-Enhancing Strategies During Tapering in Elite Swimmers. Sports (Basel). 2026;14(9):412. (PMID 42784408)
- Bretonneau Q, Morales-Artacho A, Pla R, Bosquet L. Effect of the pre-taper level of fatigue on the taper-induced changes in performance in elite swimmers. Frontiers in Sports and Active Living. 2024;6:1353817. (PMID 38450281)
- Chauvineau M, Pasquier F, Poirier C, et al. Higher training loads affect sleep in endurance runners: Can a high-heat-capacity mattress topper mitigate negative effects? Journal of Sports Sciences. 2023;41:1605-1616. (PMID 37987739)
- Chauvineau M, Pasquier F, Duforez F, Guilhem G, Nedelec M. Increased training load promotes sleep propensity and slow-wave sleep in endurance runners: Can a high-heat-capacity mattress topper modulate this effect? Journal of Sleep Research. 2024;33:e14132. (PMID 38148606)